小林英治建築研究所
建築家のエッセイ
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2000.6 (家づくりニュース00年6月号に投稿)
生き物の建築学という題名を見ただけで、これは面白そうだと直感し、目次を見ただけで買ってしまった。タイトルを見て直ぐ連想したのは、ビーバーの巣作りや小鳥の巣ぐらいで、そんな物に果たして建築学と云われるようなものがあるのかどうか興味津々だったが、読んでみて大変面白いものだった。 

私が読んだ本の中で、とても面白かった本や感銘を受けた本には、背表紙に赤丸が付いている。百数冊ある中でたった5〜6冊にしか印が無い、その中の一冊であるので自信を持ってのお薦め本である。 いつ頃読んだ本だったかと、引っ越して片付かないまま山積みになっている本の中からようやく探し出して見てみると、1983年12月20日の白井晟一の告別式の帰りに、新宿の紀伊国屋で買った事になっていた。そうだったのかと感慨もひとしおで、あの時は自宅の二階のコンクリート打ちをほったらかして中里さんと一緒に告別式に出掛けたのだったと、懐かしく思い出された。 脇道にそれたが、この本の目次を列挙して見ると

第一章・幾何学のない家 第二章・吊り下げる家
第三章・水に浮く家 第四章・地中の家
第五章・空気のめぐる家 第六章・土でつくる家
第七章・高層の家 第八章・愛のための家
第九章・威嚇のための家 第十章・バベルの家

となっている。

ここで気を引くのが、愛のための家であろう。特別な事を連想しているという訳ではないが、他は大体の想像ができるのにこれだけは全く想像できなかったからである。 さて、読み進めていくとこの八章に庭師鳥の項目があり、こんな涙ぐましい事が書いてある。この庭師鳥は巣やその廻りを装飾する鳥として知られ、全体で二十種近くいて、それぞれがデザインやその方法が異なっているようである。そもそもオスがメスを引き付けるために作るもののようで、必死な姿勢が伺える。巣の前庭には色とりどりの木の実を千個以上並べたり、直径2mの範囲を整地し絨毯を敷き詰めるように苔や木の葉を敷くものや、ドーム型の巣の前に回廊を配置し、その回廊には赤・青・黄色の木の実が色の効果を考えて配置され、壁には玉虫色に光る甲虫が埋め込まれたり、建築的に見ても興味を引きそうなもの等がある。また巣作りに数千本の小枝を使うものもあり、その作業には感嘆する。いづれにしても、作ったものがメスに気に入ってもらえなければ夫婦となる契機を失う訳だから、作り方も必死となる。この努力が報われてメスが巣の近くに降りてきてもまた一苦労で、歓迎の意思表示としてのダンスを見せなければならない。このダンスに熱意がなければ、メスは他の巣へと飛び立ってしまうキビシーい世界なのだ。ちなみに、私はこのダンスの段階で落伍者となるのはほぼ確実だが、人間社会にも庭師鳥の背景が少しでもあれば、住宅の質も多少変わるだろうと思われる。

ほとんどの鳥類が一夫一婦性であるにも関らず、この庭師鳥は永遠の愛に対して否定的で「決まった男」を持たないそうだ。それがゆえオス達は、一瞬の愛の成就を願い必死にデザインするようだ。一夫一婦の人間社会では、この必死さを持った人が少ないのは仕方のない事だろうか。 ともあれ近代以降、装飾を断ち、幾何学形態と工業生産で作ってきた現代建築に、装飾とその意味を原点に帰れと、この庭師鳥が教えているのかも知れない。

全体に装飾と形態を再考させて止まない、私にとって大切な一冊である。

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